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植物は微生物を飼いならしていた:共生を維持する免疫制御 -多層的オミックス解析で新たな生物進化のメカニズムを解明-

更新日:2026.04.15

植物は微生物を飼いならしていた:共生を維持する免疫制御

~ 多層的オミックス解析で新たな生物進化のメカニズムを解明 ~


国立大学法人九州工業大学大学院情報工学研究院の花田 耕介教授 (研究代表者)、Norhafizah Sidek研究員、伊東 梓帆 (大学院博士課程前期学生、当時)、荒巻 徹 (同) からなる研究グループは、植物はサリチル酸シグナルを利用して微生物の増殖を適切に制御し、「有益な共生関係」を維持していることが示されました。

本研究は、植物が環境に応じて微生物との関係を動的に調整する仕組みを明らかにしたものであり、低肥料条件でも作物生産を向上させる新たな農業技術への応用が期待されます。


発表のポイント

  • 植物と微生物の相互作用は栄養条件によって大きく変化することを解明
  • リンの供給量が、植物成長と微生物の定着を決定する主要因であることを実証
  • サリチル酸シグナルが微生物の増殖を制御し、有益な共生関係を維持する鍵であることを発見

図1. 異なるリン濃度で共生菌(Colletotrichum tofieldiae)に感染させた植物の成長

図1. 異なるリン濃度で共生菌(Colletotrichum tofieldiae)に感染させた植物の成長



植物は土壌中で多様な微生物と相互作用しながら生育しているが、微生物と植物の関係は環境条件によって大きく異なります。本研究では、植物と微生物の相互作用を大きく左右する重要な栄養素であるリン(リン酸)*1 に着目しました。植物は、栄養が限られた環境では、植物は微生物との共生によって効率的に栄養を獲得する必要があります。一方で、微生物が過剰に増殖すると植物の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、植物は栄養条件に応じて微生物の定着を制御していると考えられてきましたが、その仕組みは十分には解明されていませんでした。

本研究では、シロイヌナズナと根内共生菌 Colletotrichum tofieldiae *2 の相互作用に着目し、異なるリン条件下で植物の成長と真菌の定着を解析しました。その結果、低リン条件では真菌の定着が植物の成長を大きく促進し、同時に植物体内の栄養素の蓄積も増加することが明らかになりました。一方で、リン供給量が増加するにつれてこの成長促進効果は徐々に低下し、高リン条件では真菌の定着がむしろ植物の成長を抑制することが分かりました。また、真菌の定着量は低リン条件で最も高く、リン濃度の上昇に伴って減少しました。これらの結果は、植物と真菌の相互作用の結果が栄養条件によって大きく変化することを示しています(図1)。

次に、植物の免疫応答を制御することが知られているサリチル酸シグナル *3 の役割について解析しました。その結果、真菌の定着はサリチル酸シグナルを活性化し、特に低リン条件で強く誘導されることが分かりました。さらにその機能を明らかにするため、サリチル酸を合成できない変異体を用いて解析を行ったところ、これらの植物では真菌の過剰な定着が起こり、すべてのリン条件下で植物の成長が抑制されました。これらの結果は、サリチル酸シグナルが真菌の定着を適切に制御し、異なる栄養条件下で有益な共生関係を維持するために必要であることを示しています。

以上の結果から、植物は有益な微生物を受動的に受け入れているのではなく、環境条件に応じて微生物の定着を能動的に制御していることが明らかになりました。サリチル酸シグナルは、真菌の増殖を制御し、有益な相互作用を維持するための重要な仕組みとして機能しています。本研究は、植物と微生物の相互作用に新たな知見をもたらすものであり、低肥料条件でも作物の生産性を向上させる持続可能な農業技術の開発に貢献することが期待されます。

なお、この研究成果は、「Frontiers in Plant Science」(2026年4月15日 (水) 7時 (英国時間) )に掲載されます。



■ 用語解説


*1 リン (リン酸):
植物の成長に必須な三大栄養素は、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)である。本研究では、その一つであるリンに着目した。植物はリンを主に「リン酸」の形で吸収するが、土壌中のリンは不溶化しやすく、植物が利用できる量は限られている。そのため植物は、根の形態変化や微生物との相互作用を通じて、リンの吸収を効率化している。

*2 共生菌 (Colletotrichum tofieldiae):
スペインのリン欠乏土壌に生育するシロイヌナズナから分離された根内共生菌であり、低リン条件で植物の成長を促進することが報告されています (Hiruma et al., Cell, 2016)

*3 サリチル酸シグナル:
サリチル酸シグナルとは、植物が微生物の侵入を感知した際に活性化される免疫シグナル経路の一つであり、防御応答を誘導する重要な仕組みです。サリチル酸は植物ホルモンの一種で、このシグナルの活性化により、防御関連遺伝子群が発現し、病原体の増殖が抑えられます。



■ 論文の情報


タイトル “Salicylic Acid Signaling Controls the Colonization Behavior of Colletotrichum tofieldiae in Arabidopsis thaliana”
著者名 Norhafizah Binti Sidek, Shiho Itoh, Toru Aramaki, Yuji Yamazaki, Hisashi Tsujimoto, Kazumasa Shirai, Kousuke Hanada
雑 誌 Frontiers in Plant Science
D O I 10.3389/fpls.2026.1770854.


■ 論文の情報


本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業?挑戦的研究 (萌芽)(JP19K22313)「共生菌の感染を促進させる植物由来ペプチドの網羅的探索 (研究代表者:花田耕介)」等の支援を受けて行われました。



プレスリリース本文はこちら


【研究内容に関する問い合わせ先】
 国立大学法人九州工業大学
 大学院情報工学研究院生命情報工学研究系 教授 花田 耕介
 E-mail: kohanada*bio.kyutech.ac.jp
 TEL: 050-1738-7380

【報道に関する問い合わせ先】
 国立大学法人九州工業大学
 管理本部総務課広報係
 E-mail: pr-kouhou*jimu.kyutech.ac.jp
 TEL: 093-884-3007

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